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湘南理工学舎
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2022/05/03

 楽しく学ぶ…熱力学

 エントロピー(4) 熱力学第二法則とエントロピー

ギブスは「クラウジウスのエントロピーは初学者を寄せ付けないだろう」と言った。少しでも寄り付ければ良いのだが!
不可逆過程に於けるエントロピー  

エントロピーは熱力学第二法則とは関係なく定義できる量 エントロピー\(~=~\)熱力学第二法則ではない!
 「状態量エントロピー」導出の過程で, カルノーサイクルで用いた原理は, \[\varDelta U=\varDelta Q'-p\varDelta V\] \[\sum\frac{\varDelta Q'}{T}=0 \] の2つである。
 「状態量エントロピー」は, クラウジウスの不等式に於いて, \(\displaystyle \sum\frac{\varDelta Q'}{T}=0~\), すなわち, 可逆過程においてのみ定義, 算出される状態量である。
補足すると, エントロピーは, 熱力学第一法則と, 準静的過程という概念だけで定義される物理量である。従って, 自然現象の不可逆性を説明する熱力学第二法則とは無関係に導入できる。

エントロピーは状態量であることの復習
 熱量\(~d'q~\)は状態量では無く, 積分は意味のないものであるが, 絶対温度で除した\(~d'q/T~\)は積分可能で, 状態量となり得るものである。
そして, クラウジウスの不等式 = 0 → 周回積分 = 0 → ポテンシャル関数の存在という経緯で状態量エントロピーが導かれた。
エントロピーは状態量であり, 変化の過程が可逆過程であれ, 不可逆過程であれ, その状態で一意的に定まる。
 積分可否という点のみでは, \(~d'q/T~\)は可逆過程でも不可逆過程でも積分可能である。但し, 状態量とするには\(~d'q/T~\)は可逆過程でなければならない。
可逆過程に限定される理由は周回積分 0 とポテンシャル関数で述べた通りである。周回積分が\(~0~\)であるためには, クラウジウスの不等式 = 0。すなわち, 熱の出入りは可逆過程でなければならない。
 つまり積分\(\displaystyle \int_C\frac{d'q}{T}\)は可逆過程でも不可逆過程でも可能であるが, 状態量となるのは可逆過程においてのみである。

可逆過程と不可逆過程のエントロピー ここが本当に分かり難い。
 クラウジウスの不等式は,     \[\sum_{i=1}^{N}\frac{\varDelta'q_i}{T_i}\le 0 \] であった。等号は, サイクル\(~C~\)が多数の可逆的なカルノーサイクルから成り立っているときに成り立つ。単一のカルノーサイクルでは, \[\frac{q_1}{T_1}+\frac{q_2}{T_2}=0 \tag{1} \] である。

 \(U,V~\)平面で, 状態\(~A~\)から出発し, \(A\to B\to A~\)のループ\(~C~\)に沿った, サイクルを考える。ここで\(~C_1:A\to B~\)は任意の過程(可逆過程とは限らない), \(C_2:B\to A~\)は可逆過程とする。
エントロピー
(この図はときわ台学「化学熱力学」を改編しています)
 クラウジウスの不等式より, \[\begin{align} \oint_C \frac{d'q}{T}&=\int_{C_1}\frac{d'q_{irrev}}{T}+\int_{C_2}\frac{d'q_{rev}}{T} \lt 0\tag{2}\\ &=\int_{C_1}\frac{d'q_{irrev}}{T}+S(A)-S(B)\lt 0\tag{3} \end{align} \] 等号が入っていないのは, 不可逆過程 (\(~C_1~\))が含まれているからである。
 図の破線緑色は不可逆過程, 実線青色は可逆過程について, それぞれ \[\int_A^X \frac{d'q}{T} \] の積分値を順次プロットしたものである。\(X~\)は\(~A\to X\to B~\)の任意の状態である。
 改めて(2)式を(可逆過程の積分の向きが変わっているので注意) \[\int_{A}^{B}\frac{d'q_{irrev}}{T}\lt \int_{A}^{B}\frac{d'q_{rev}}{T} \] と書くと, 緑色破線(不可逆過程)が青色実線(可逆過程, 終点は\(~S(B)~\))よりも下に書き込んである理由が分かるだろうか?
 (2)式右辺第二項は, (\(~C_2~\)が)可逆過程であるから, ポテンシャル関数\(~S~\)が存在して, \[\int_{C_2}\frac{d'q_{rev}}{T}=\int_{B}^{A}\frac{d'q_{rev}}{T}=S(A)-S(B)\] と表せる。(\(C_2:B\to A~\)なので\(~S(A)-S(B)~\)である.)
 (3)式を次のように書いて \[\varDelta S\equiv S(B)-S(A)\gt \int_{A}^{B}\frac{d'q_{irrev}}{T}\tag{4} \] とするのが普通である。(4)式が自然現象の不可逆性を表す熱力学第二法則の解析的表現である。
 ここで次の様な疑問が起こる。エントロピーは状態量だから, 状態\(~A,B~\)だけによって決まり, (2)式右辺第一項(\(~C_1~\))も \[\int_{C_1}\frac{d'q_{irrev}}{T}=\int_{A}^{B}\frac{d'q_{irrev}}{T}=S(B)-S(A)\] と書くことは出来ないのか?答えは「出来ない」である。
より正確には, 積分の計算は出来ても, その値は状態量エントロピーとはならないのである。

 (1)式から分かるように, 可逆過程の\(~d'q~\)では1サイクルの和は\(~0~\)。不可逆過程の\(~d'q~\)では1サイクルの和は\(~\lt 0~\)である。
1サイクルの和が\(~0~\)のときのみポテンシャル関数が存在する。つまり可逆過程の\(~d'q~\)と, 不可逆過程の\(~d'q~\)とは異なる。
これも, より正確に言えば, 可逆過程での系の温度\(~T~\)は, 外界(\(external\))温度\(~T_{ext}~\)と正確に同じである。
 一方, 不可逆過程での系の温度は必ずしも\(~T_{ext}~\)とは一致しない。従って, \(~d'q/T~\)は異なり, 積分値も当然異なる。
 これが, 不可逆過程が状態量とならない具体的な理由である。

不可逆過程のエントロピー キルヒホッフも誤解した。
 そして, ここのところが分かり難いのであるが, 不可逆過程であっても, 状態量\(~S(A),S(B)~\)は一意的に定まる。
不可逆過程で\(~A\to B~\)と変化した場合は, 可逆過程で\(~B~\)に至る経路を見つけ, その経路に沿って積分することで\(~S(B)-S(A)~\)を計算する。理想気体での計算例はこちら。
 分かり難い理由の第一は, 力学において同様の例が見当たらないことであろう。力学には可逆, 不可逆の概念は無いが, 力学での状態量, 例えば重力ポテンシャルは, 計算できないような経路は無く, 任意の経路の積分が同じ値を取る。計算は出来ないが, 状態は定まるような力学的な物理量はあるのだろうか?
 熱力学におけるエントロピーは極めて数学的な量である。物理的なイメージを求めるより, 素直に数学を信じる方が良いかもしれない。物理的なイメージはボルツマンのエントロピー\(~S=k_BlogW~\)の方がずっと分かり易い。

 (2)~(4)式を見やすい様に並べて書くと (積分の方向がはっきり分かるように, \(C_1,C_2~\)ではなく, \(A,B~\)とした), \[\begin{align} \varDelta S&=\int_{A}^{B}\frac{d'q_{rev}}{T}\tag{5} \\ \varDelta S&\gt \int_{A}^{B}\frac{d'q_{irrev}}{T}\tag{6} \end{align} \] (6)式右辺の積分はエントロピーを与える式では無く, 不可逆変化で状態\(~A~\)から状態\(~B~\)へ移った場合の\(~d'q_{irrev}/T\)の積分計算値でしかない。
 繰り返すが, 可逆過程の系の温度\(~T~\)は, 常に外界の温度\(~T_{ext}~\)と等しく\(~T=T_{ext}~\)であるが, 不可逆過程の中には系と外界に温度差がある状態での熱量の移動も含まれている。
 クラウジウスの不等式は, 不可逆過程ではエントロピーは計算できないというだけはなく, 更に, 例えば(6)式を等温過程とすると, \(A~\)から\(~B~\)への不可逆過程で系が得る熱量は, 可逆過程の場合に比べて小さい。あるいは, 不可逆過程で系が失う熱量は可逆過程の場合に比べて大きいということを示している。 理想気体での計算例はこちら。

熱力学第二法則とエントロピー 冒頭でエントロピー\(~=~\)熱力学第二法則ではない!と言った。
 (5), (6)式で状態\(~B~\)を限りなく状態\(~A~\)に近づけると, まとめて, \[dS\ge \frac{d'Q}{T}\] と書ける。等号は可逆過程, 不等号は非可逆過程である。 \[d'Q\le TdS \tag{7}\] として, (7)式を熱力学第二法則と呼ぶこともある。(7)式では象徴的な意味を込めて\(~q\to Q~\)としている。
 これが, 自然現象の不可逆性を説明する熱力学第二法則とクラウジウスのエントロピーの関係である。
エネルギー保存則と準静的過程という概念のみから定義されたエントロピーが, (7)式によって, “熱”と“温度”と関連づけられた, と言える。

クラウジウスのエントロピーは初学者を寄せ付けない! 先人も苦労した。
 エントロピーは不可逆過程では計算出来ないが, 状態量であるから, 熱力学的状態が定まれば一意に定まる。
その場合の算出方法は, その状態に至る可逆過程を見つけ, その可逆過程に沿って計算する。 等温過程, 断熱過程でそれを示した。
実に分かり難いところであるが, 先人も苦労した様である。
 熱輻射の熱力学理論で優れた貢献をしたキルヒホッフでさえも,「可逆過程によってのみ計算可能なエントロピーを不可逆過程に適用してはいけない.」と主張して, プランクの論文を批判した(1879年)。
そのプランクは晩年に記した個人的回想(1946年)の中でこのことに触れ, 残念なことだったと述懐している。
 あのジェームズ・クラーク・マックスゥエルでさえ, 最初はエントロピーを理解できなかったと言う。どの辺りかは分からないが,キルヒホッフと同じ誤りの可能性はあると思う。
 ジョシア・ウィラード・ギブスは「クラウジウスのエントロピーは初学者を寄せ付けないだろう」と言った。ここら辺りのことだろうか?
エントロピー増大の法則 日常会話でも使う「エントロピーは増大する!」

最も簡単なエントロピー増大の法則
 等温操作において, 熱が\(~\varDelta Q~\)だけ移動する時にエントロピー は \[\varDelta S=\frac{\varDelta Q}{T} \] だけ変化するのであった。
 今, 温度\(~T_1~\)の系と温度\(~T_2~\)の系\(~T_1\lt T_2~\)が接触し, 熱の移動により温度\(~T_f~\)で平衡に達したとしよう。
温度が変化しない程度の微小な熱移動を考えると, 温度\(~T_1~\)の系のエントロピーは\(\varDelta Q/T_1~\)だけ増加する。
一方温度\(~T_2~\)の系は\(\varDelta Q~\)の熱が出て行ったから, エントロピーが\(\varDelta Q/T_2~\)だけ減少する。結果として全系のエントロピーは, \[\frac{\varDelta Q}{T_1}-\frac{\varDelta Q}{T_2}=\varDelta Q\left(\frac{1}{T_1}-\frac{1}{T_2} \right) \] だけ変化する。\(T_1\lt T_2~\)だからこの式は正であり, 確かにエントロピーは増加している。

 熱をエネルギーという状態量でみると, 低温で受け取っても, 高温で受け取っても同じ量だけしか変化しないが, エントロピーという状態量は, 受け取るときの物質系の温度(渡す方の熱源の温度)に応じて, その増加量は変化する。
同じ熱量ならば, 低温の方がエントロピーは大きい。クラウジウスが当初「換算熱」と呼んだ所以だろうか?

狭い意味でのエントロピー増大の法則 「宇宙のエントロピーは最大に向かう」とは異なる。
 断熱過程では可逆過程であっても不可逆過程であっても\(~d'q=0~\)であるから, (5), (6)式の右辺は\(~0~\)である。 \[\varDelta S\ge 0\tag{8} \] これをエントロピー増大の法則と呼ぶが, クラウジウスが宣言した「宇宙のエントロピーは最大に向かう」とは異なる。
断熱状態における不可逆変化でエントロピーが増える (>0) ということである。
補足すれば, 断熱自由膨張(不可逆過程)では積分値は\(~0~\)であるが, エントロピーは増える (>0)。\(0~\)では無い。

エントロピーは減少する? エントロピーは増えるばかりではない。
 「エントロピーは増大する」と刷り込まれているのでなかなかすっきり理解できないが, クラウジウスの不等式 \[\int_{A}^{B}\frac{d'q_{rev}}{T}\gt \int_{A}^{B}\frac{d'q_{irrev}}{T}\tag{9} \] は, 積分\(~\displaystyle \int\frac{d'q_{rev}}{T}~\)の符号については何も述べていない。(9)式を満たす限りに於いて, \(\displaystyle \int\frac{d'q_{rev}}{T}~\)が負でも良いのである。
エントロピー減少
(この図はときわ台学「化学熱力学」を改編しています)
 上図, 左図が狭い意味での, エントロピー増大の法則である。右図のように減少する場合もある。例えば, \[\rm 4Fe+3O_2=2Fe_2O_3+393\,[Kcal] \] 使い捨てカイロである。袋の中の鉄粉の酸化による発熱反応(袋という系が受け取る熱量\(~\varDelta Q~\)はマイナス)ではエントロピーは減少する。
 一方, カイロと人間(外界)を合わせた全体(孤立系という)で見れば, 体温の方が低いので\(~\varDelta Q/T~\)は大きくなる。すなわちトータルのエントロピーは増大する。
 孤立系でも断熱系でも, 何らかの方法で熱を外に捨てなければ, 自発変化(熱は高い所から低い所へ移動する.)では, エントロピーは増大するしかないということでもある。

 何度も繰り返すが, \(C~\)点であっても, エントロピーは\(~S(B)~\)である。\(C~\)は積分の結果に過ぎない。
クラウジウスの不等式が示すのは系が不可逆過程を辿った時は, その点に至る可逆過程に沿ったエントロピーは, 不可逆過程に沿った積分値より大きい。ということである。
孤立系のエントロピー 「宇宙のエントロピーは最大へ向かう」はこちら。

 (8)式\(~\varDelta S\ge 0~\)を, 孤立系(\(d'q=0,d'w=0\))に拡大して適用した, 孤立系における自発変化(不可逆変化)は, 系のエントロピーを増大させる, こちらをエントロピー増大の法則と言う場合も多い。
 例えば, 断熱自由膨張は, 外界(の一部)は真空であり, 仕事の授受は不可能で, 孤立系の例と言える。
従って, 気体の真空中へ断熱自由膨張は, 孤立系の自発変化(不可逆変化)とみなせ, 熱の移動が無いにも関わらず, エントロピーは増大する。
(既に, エントロピーは単純な熱の移動ではない事は, 理想気体のエントロピーで触れた。)
 詳しく言うと, 不可逆過程なので(6)式\(~\displaystyle \varDelta S\gt \int_{A}^{B}\frac{d'q_{irrev}}{T}~\)が適用される。この積分値は, 可逆過程に沿って正しく計算されたエントロピー\(~\varDelta S~\)との比較では等号は成り立たず, \(\varDelta S\gt 0\), つまり\(~\varDelta S~\)は増加する。新しい原理は必要ではなく, クラウジウスの不等式から「孤立系のエントロピー増加」が導かれるということである。
 孤立系なので, 当然, 外部から熱の移動は無く, エントロピー増大の本質を熱の移動に求めることは間違いである。このことは統計力学を持ち出さずとも, 熱力学の範囲内で理解できるということである。
 もっとも「内部エネルギー\(~U~\)は温度のみの関数である」を, ジュール・ゲイリュサックの実験から理解するのと, 分子運動論\(~U=3/2nRT~\)から理解するくらいの差はある。言うまでもなく後者は圧倒的に単純明快である。

 外界を系に含めると, 全ての系は孤立系になる。自然界はまさに孤立系である。自然界で起こる変化は全て不可逆変化であり, さらに, 熱\(~d'q~\)を捨てられない, 即ち, \(d'q/T~\)の積分を\(~0~\)にできないから, エントロピーは必ず増大する。そしてエントロピーが極大になると, 最早, 系は変化しない平衡状態となる。
 系\(~(system)~\)のエントロピーと外界\(~(surroundings)~\)のエントロピーの和 \[S=S_{sys}+S_{surr} \] を用いると,
\(\qquad\)(1) 孤立系の平衡条件  \(S=S_{Max}\)
\(\qquad\)(2) 孤立系の変化の方向 \(\varDelta S\gt 0\)
が言える。クラウジウスが「宇宙のエントロピーは最大量に向かって増えて行く」と宣言した所以である。

 熱と温度を結び付けた\(~d'Q\le TdS~\)は革新的なことである。ギブスは熱力学第一法則を\(~dU=d'Q-pdV~\)ではなく, \[dU=TdS-pdV\] と表現すべきと強く主張した。

coffe

[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした!

 この項目の説明は難しい。教科書, ネット記事を見ても, どなたも苦労されている。主として, ときわ台学とF-Nの高校物理の記事を参考にさせて頂いたが, 相当読み返し, いろいろ計算もしてみた。自分なりに改編したが, 間違っていればお詫びする。マックスゥエルも当初, 理解出来なかったという「クラウジウスのエントロピー」に, 初学者が少しでも寄り付けただろうか?